令和4年4月1日に「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(以下、生命・医学系指針)」が施行されました。

今回、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和2年法律第44号。及びデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)の一部の施行に伴い、これらの法律の規定による改正後の個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号)(以下、改正後個情法)の規定を踏まえ、生命・医学系指針が見直されたことにより、新たに改正の運びとなりました。

本記事では、令和4年4月1日に施行された生命・医学系指針のポイントの中で、「用語の整理」「指針の範囲の見直し」について解説致します。

生命・医学系指針(令和4年4月1日施行)について

生命・医学系指針について_デジぽちLab

出典:「令和2・3年個人情報保護法の改正を受けた生命・医学系指針の見直しについて」(研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室)(https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n2265_05.pdf)(令和4年4月1日に利用)

 

生命・医科学系指針(令和4年4月1日施行)改正のポイント

【主な変更点のまとめ】
・用語の定義の見直し
・指針の適用範囲の見直し
・個人情報の管理主体の規定
・インフォームド・コンセント等の手続の見直し
・改正前の指針第9章(弊社注、「個人情報等及び試料に係る基本的責務」)の見直し
・経過措置

出典:「「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の一部改正について(通知)」(3文科振第654号 科発0310第1号 医政発0310第1号 20220307商局第4号) (https://www.mhlw.go.jp/content/000910918.pdf)(令和4年4月1日に利用)


 改正のポイント ・指針における生存する個人に関する情報に関する用語は、改正後個情法の用語に合わせた。「匿名化」や「対応表」などの改正後個情法で使用されていない用語は用いない。
・学術例外規定の精緻化により、旧指針で規定されていたIC手続(情報の取得・利用・提供)も、例外要件ごとに規定した。
・外国にある者への試料・情報の提供に係る同意を取得する際、提供先の国の名称や制度等の情報を本人へ提供することを規定した。

出典:「令和2年・3年個人情報保護法の改正に伴う生命・医学系指針の改正について」(文部省 厚生労働省 経済産業省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000921727.pdf)(令和4年4月1日に利用)


用語の整理【指針第2】

① 指針における生存する個人に関する情報に関する用語は、改正後個情法の用語に合わせた。
② 死者の情報に関する用語の定義は置かず、死者に係る情報を用いる研究については、生存する個人の情報と同様に取り扱う旨の規定を置いた。
③ 「匿名化」や「対応表」の用語は用いない。

指針の範囲の見直し【指針第3の1】

改正後個情法において仮名加工情報が新設されたこと等に伴い、「個人情報でない仮名加工情報」に相当する情報等についても、新たに指針の対象とすることとした。

出典:「令和2年・3年個人情報保護法の改正に伴う生命・医学系指針の改正について」(文部省 厚生労働省 経済産業省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000921727.pdf)(令和4年4月1日に利用)

 

解説

(1)改正法を受けた指針の体系にかかる規定の見直し
1)個人に関する情報の用語(個人情報、匿名化等)の定義

〇 「個人情報」の定義について、法においては「特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」とされている一方で、現行指針(弊社注、令和3年6月30日施行時の生命・医学系指針)においてはこれと異なる定義をしている。(下線弊社)

〇  現行指針(弊社注、令和3年6月30日施行時の生命・医学系指針)に定義する「匿名化」は、「個人情報等について、特定の生存する個人又は死者を識別することができることとなる記述等(個人識別符号を含む。)の全部又は一部を削除すること(当該記述等の全部又は一部を当該個人又は死者と関わりのない記述等に置き換えることを含む。)」とされており、元の個人情報への復元可能性や、他の情報との照合の容易性までは言及していない。

この点について、法では「匿名化」は用いられておらず、復元可能性や照合の容易性を踏まえて、匿名加工情報の作成、仮名加工情報の作成といった用語の用い方をしている。現行の医学系指針において、個人情報の定義は個情法と異なっている。(下線弊社)

出典:「令和2年・3年改正個人情報保護法を踏まえた生命・医学系指針の見直しについて (取りまとめ(案)」(第3回 生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議 資料1-1)(https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n2288_01.pdf)(令和4年4月1日に利用)

 

(参考)個人情報・仮名加工情報・匿名化加工情報の対比(イメージ)

出典:「個人情報保護法 令和2年改正及び令和3年改正案について」(個人情報保護委員会)(https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n2267_04.pdf)(令和4年4月1日に利用)

 

仮名加工情報、個人関連情報の創設

出典:「個人情報保護法 令和2年改正及び令和3年改正案について」(個人情報保護委員会)(https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n2267_04.pdf)(令和4年4月1日に利用)

 ポイント 今回の改正により、個人に関する情報の用語が個人情報保護法と統一され、定義されることとなりました。

主な相違点としては、従来の「個人情報」と「匿名加工情報」に加え、個人情報保護法に基づき、「仮名加工情報」の用語が加わり、新たに生命・医学系指針の対象となった点です。「仮名加工情報」は「対応表」と照合すれば本人が特定できる情報となります。双方、生命・医学系指針の対象ではありますが、取扱いに関する規定が異なりますので、「匿名加工情報」と「仮名加工情報」を混同しないよう、注意が必要です。

 

次回の解説記事について

次回の記事では、「インフォームド・コンセント等の手続の見直し」について解説いたします。