米国医療最前線コロナ禍における製薬産業の新たな挑戦_デジぽち

近年はデジタルを活用したテレヘルスの浸透が医療機関で進んでいます。加えてソーシャルネットワークを活用した大規模グローバル・コミュニティによる治験や臨床研究なども活発化しています。

大量の情報やデータを利活用する時代に医療業界やヘルスケア産業はどこを目指すのか。ITテクノロジーで最先端を走るシリコンバレーから製薬ビジネスの最新事情をリポートします。

本記事は日本最大級の製薬・医療業界特化型動画サイト「デジぽち」で2020年10月より公開している動画のテキスト版です。内容は当時のものとなりますのでご了承ください。

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 出演者 西村 由美子様  AugustNetworks,Inc.代表
沼田 佳之様     Monthlyミクス編集長
望月 英梨様     ミクス編集部 デスク

デジぽち初!アメリカと中継しての対談企画

沼田 様(以下、敬称略) Monthlyミクス編集長の沼田です。

望月 様(以下、敬称略) デスクの望月 英梨です。

沼田 今日はですね、私どもの企画として初めての試みとして、アメリカと中継をつないでお届けしたいと思います。特に「アメリカの製薬産業をどういう風に見ているか」というね、西村由美子さんというメディカルジャーナリストで、ミクスに毎月原稿を書いてくださっている方とお繋ぎして進めていきたいなという風に思っております。

非常にね、緊張しておりますけれども(笑)。いつもは生ライブ配信のところを今回は録画という形になっておりまして、Q&Aは取れないのですがその分でアメリカからの最新情報をお伝えして頂けるかなと思いますので、最後までご期待頂ければなと思っております。

望月 はい。

沼田 では早速、西村さんを呼んでみましょうか。今、西村さんはシリコンバレーにいらっしゃいます。シリコンバレーの西村さん。

西村 様(以下、敬称略) はい、こんにちは沼田さん、こんにちは望月さん。よろしくお願いします。

沼田 よろしくおねがいします。

望月 よろしくおねがいします。

 

製薬企業における営業・マーケティング手法の日米比較

米国医療最前線 コロナ禍における製薬産業の新たな挑戦_1_デジぽちLab

沼田 早速、今日の本題の方に入っていきたいと思います。今日のテーマはですねアメリカから見るその製薬産業、製薬業界について話を進めていきたいと思います。

いろんな話題が今アメリカではあるわけですけれども。やっぱり皆さんに知ってるようで知らない話っていうのもたくさんあると思います。この番組は、営業に関わる方がたくさん見てらっしゃると思いますが、まずは最初にアメリカの製薬企業がどういう風な営業戦略を組んでいるか、あるいはどういう風な形でそのプロモーションを行っているかについて、西村さんの方から話を伺いたいなと思います。

西村 はい。お話に入る前に処方薬がお医者さんの処方を経て最終的に患者さんの手に渡るまでのプロセスが日本とアメリカで少し違うので、そのことを簡単にお話しさせて頂いて、それから状況を共有させていただきたいと思います。

新薬が承認・薬価収載を経て保険適用対象になる点は日米共通

西村 日本と一緒でお薬は認可を取らなければいけませんので、FDAの認可を取りまして、それから日本でもそうですけど診療報酬点数表、薬価表に乗せていただかないと保険の償還が受けられない。アメリカもそこまでは一緒なんです。

ですが日本の場合はそこから先は、病院のドクターが処方すれば大体どんなお薬でもそのまま患者さんに使うことができるというのが状況だと思うんですが、アメリカの場合は薬価表に乗った後で、各保険会社の医薬品リストというものに載せてもらわなければいけない、というプロセスがあるんです。

ここがちょっと分かりにくいんですが、日本は保険者として企業ごと・自治体・国などがやっていらっしゃる保険などもありますけれども、全部ほとんど同じ・・・ある意味では公的資金が入ってるのと同じ状況の保険で、例えば民間企業の健保がやってらっしゃる保険が、国民健康保険と自己負担率以外に何か違うことがあるかというとおそらくないと思います。診療報酬点数表に載っている治療を受けられるし、薬価表に載っている薬が使える。

米国では製薬企業が医師だけでなく保険会社にも営業活動が必要

西村 ただアメリカの場合は保険は全部民間保険会社が作ってる保険商品を買って使うんですね。ですから企業も従業員に出す保険は5,6社の医療保険を保険の商品を並べましてその中から従業員が好きな医療保険を選んで加入する。そして1年ごとで毎年更新する。

メディケアは連邦政府がやってる保険ですが、こちらも複数社の保険会社が提供している保険商品の中からメディケアの加入者の方が好きなものを選んで加入するというそういう形になっています。

そのため保険会社はこの薬を支払い償還のリストに載せているけれども、別の保険会社は同じ薬を載せていないということが起こるんですね。

ですからアメリカの場合には認可が通って薬価表に載っただけではダメで、その先保険会社に保険会社の償還リストに乗せてもらうという作業が一つある。それで医薬品会社は保険会社に向けてBtoBの営業をかなりしっかりおやりにならないといけないという状況になっているのです。

日本と米国の医療保険の違い_米国医療最前線 コロナ禍における製薬産業の新たな挑戦_2_デジぽちLab

西村 以前は・・・ティーボサービスでお医者様が好きなお薬をお使いになれたんですけれども、90年代の半ば後半からマネージドケアというやり方も一般的になりましたので、アメリカでは保険会社との協議合意の上でしか色々な治療や医薬品の処方ができない仕組みになっています。

ドクターの自己裁量だけでお薬を使えないので、製薬企業のMRの方はドクターに営業されるだけでは不十分で、BtoBで保険会社に対する営業をやることがかなり重要になってきます。ここは普通の消費者には見えないところですね。

米国では医療用医薬品の患者向けテレビコマーシャルも日常

米国医療最前線 コロナ禍における製薬産業の新たな挑戦_3_デジぽちLab

西村 ただ、アメリカの場合も保険会社は保険を一般の消費者の方に買って頂かなければなりませんので、消費者の方が使いたいと思っている薬品が入っていないと、その保険に加入してもらえませんから、一般の患者さんあるいは消費者の方がどういう薬品を使いたいとドクターに伝えるかということはかなり重要なことなんです。

そうすると消費者の方にどんな薬があるか、処方薬であってもですね、知ってもらわなければいけません。そこで、いわゆるBtoCの営業ですね、直接に消費者の方あるいは慢性疾患で薬を飲んでいる患者さん向けに非常にたくさんのテレビコマーシャルを流して薬を知ってもらう、あるいは広告するということが非常に盛んに行われてます。

消費者の方あるいは慢性疾患で薬を飲んでいる患者さん向けに非常にたくさんのテレビコマーシャルを流して薬を知ってもらう、あるいは広告するということが非常に盛んに行われています。

盛んにどころではなくて、実際テレビを見ていますと高齢者の方がテレビを見ていることが多いというのもあるんですけれども、糖尿病のお薬・高血圧のお薬・コレステロールのお薬、それから抗うつ剤の広告も朝から晩までコマーシャルされていますね。

あるいはちょっと微妙な話ですけれども、尿失禁の方のコントロール薬であるとかそういう慢性疾患の方がよくお使いになる薬のコマーシャルがほとんど朝から晩までひっきりなしに流れているというのがアメリカの状況です。

製薬企業の膨大な広告費がトランプ政権下で問題に

西村 これが政策的にはかなり問題にされています。トランプ大統領が今一番問題にしていることがいくつかあるんですけれども、医薬品会社のテレビコマーシャルに一体、各医薬品、製薬企業はいくら使っているのか内訳を公開しろと言う公開質問状を出しておられる。

このぐらい大きな問題でこの広告費が高いために医薬品の薬価が高くなっているんではないかという議論になるぐらいたくさんテレビコマーシャルが流されています。

だから営業と言うと二つですね。一つはBtoBで保険会社に対して大変強力な売り込みをする必要がある。二番目はコンシューマーの方に直接テレビなどもちろんソーシャルネットワークも使われてますけども、それらを通じて大型のコマーシャルを繰り返し流すという二つのやり方が今のアメリカの主流になってます。

米国医療最前線 コロナ禍における製薬産業の新たな挑戦_4_デジぽちLab

沼田 なるほど非常に興味深いですよね。
テレビコマーシャルは日本では規制されていて出来ませんので、アメリカのテレビでそんなに毎日朝から晩までやってるって言うのは非常に・・何て言うのでしょう、一般消費者に向けてのそういう喚起をしてるんだと思うんですけど、製薬会社のプロモーションとしてもちょっと独特な感じがしますよね。望月さんいかがですか?

望月 そうですね。私も海外取材が結構長かったので、テレビコマーシャルも凄かったですし、学会に行ったらホテルの中にも製品の広告が入っていたりとか、ドアを開けたら製品の広告がある、みたいなこともありましたね。

少しやっぱり日本とは状況が違うかなとは思うんですが、日本でもファルマなんかはⅮTCを日本でもやりたいということで、規制改革に持って行ったりなどというところもあるんですが、やっぱりちょっと日本の国民皆保険制度には正直馴染まないのかなという気はしますよね。

特にコロナの中で日本の患者さんも、健康意識ですとか情報へのアクセスとかいうことを考えるようになったと思うので、より一層逆にDTCというのは馴染まない状況になったのかなっていうような感想を私は少し持っています。

西村さんから見てどうですか?日本とそういうところは違いますか?

西村 私処方薬全然ないんですけど、ほとんど薬の名前が言えるくらいコマーシャルが流れるので、ご自分の薬について考えてらっしゃる方はコマーシャルの量にやはり影響を受けると思います。

で、ただ面白いのは最近「副作用を言わなければいけない」という規制が大変厳しいので、「この薬をお飲みになると」って言って以下、だーっと副作用の可能性のある症状をナレーションで語るんです。それがそこだけものすごい早口で。だから印刷で言うと本当の小さいサイズの文字で言ってるみたいな感じ。でも本当に全部並べるんで何十個も並ぶと「こんなに副作用がある薬飲んでも大丈夫かな」ってだんだん心配になって。大変興味深いところですけど。テレビコマーシャルの影響は大変大きいと思います。

望月 薬はリスクとベネフィットがあってこそですから、やっぱりこうリスクを知ってもらうって非常に重要なところなんですけれども、やっぱりそういう所って売ろうと思うとちょっと欠けがちですよね。

患者層の限られている薬剤は、テレビよりもターゲティング精度の高いインターネットで

望月 一個教えていただいてもいいですか?キムリアみたいな高額な薬剤も・・・キムリアの場合は保険の償還というかペイイングのシステムがちょっと違うと思うんですけれども、今状況としてはそういったところもテレビコマーシャルを使って患者さんに直接情報を提供するようなことはされていますか?難病を含めてコマーシャルをやっているのを見たことがあるような気もするんですが・・・。

西村 非常に特定の層に訴求したい場合はたぶんインターネットかソーシャルネットワークが使われている場合の方が多いと思います。

テレビコマーシャルではおそらく、患者数の多い慢性疾患の方が比較的日常的に使われるお薬のような場合が訴求力も高いのだろうと思います。それは多種多様に出てます。ちょっと私は細かく値段はわかりませんが、非常に高額なお薬っていうのはコマーシャルがないわけじゃないと思いますけれども、それは特定の層に訴求できることがはっきりしているところの枠を使って広告しているのではないかと思います。

望月 わかりました、ありがとうございます。

保険会社もリアルワールドデータで製剤のROIを分析

沼田 私からも一つ質問なんですけど、先ほどMRさんの活動というのは、日本ですと病院の医師に対して情報を提供していますが、アメリカの場合ですとペイヤーの保険者に対して行うのがメインになってるというようなことでした。保険者の方にはそのいわゆる償還リストに乗せてもらうっていうことなんですがその際の何て言うんでしょう、インセンティブになるような事ってどういうことが考えられるでしょうか?

西村 測れるかどうかは別として、1つはやはり薬の効果、つまりReturn On Investmentみたいなものだと思います。最近はデータがたくさん取れるようになりましたので薬の効果にビッグデータ解析でかなり色んな事が分かるようになってきています。

それで実際に処方薬として市場に出てからは、いわゆるリアルワールドデータ、実際に使われてどうだったかというデータを使って分析をしていると思います。長いコーホートで使われる慢性疾患の場合は特に、保険会社はそういう情報をデータサイエンティストを大量に使って非常にきちんと解析をやっていると思います。その中で何が効果的であるかってことを保険価格との兼ね合いで考えていくというのがひとつの戦略じゃないかと思います。

それから、希少難病のような方の場合にはまた別の考え方がありますので企業企業でどういうプリンシパル、スタンスをとっていくのかという。それによってたぶんかなり違ってくると思います。

沼田 なるほど、ありがとうございました。

 

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本記事は日本最大級の製薬・医療業界特化型動画サイト「デジぽち」で2020年10月より公開している動画のテキスト版です。内容は当時のものとなりますのでご了承ください。

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