近年続々と登場している皮膚科領域の新薬。
最終回となる第3回は「多汗症」を取り上げます。
多汗症の領域は、適応を腋窩などの局所多汗症とした新薬がこの数年で発売され、治療の選択肢が増えていますが、医療機関で治療する疾患というイメージは必ずしも高くありません。
発売・承認申請中の新薬
近年発売になった薬剤は以下のとおりです。
いずれも、エクリン汗腺に発現するムスカリンM3受容体を介し、アセチルコリンの作用を阻害する外用薬です。
これらの薬剤は、多汗症疾患重症度評価尺度(HDSS)3度以上の重症と呼ばれる患者さんを対象に行った国内臨床試験において有用性が確認されています。
また直近では、久光製薬から原発性手掌多汗症の治療薬である「オキシブチニン塩酸塩」を承認申請した、というプレスリリースが発表されています。
オキシブチニン塩酸塩は、すでに「過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁」を効能効果とするネオキシ®テープ73.5mg(久光製薬)として臨床で用いられている薬効成分です。
従来から使用されてきたのは塩化アルミニウム
原発性局所多汗症の治療においての第一選択1)は、すべての部位で塩化アルミニウム単純外用/ODTが推奨されています。
副作用としては刺激性皮膚炎があるものの、休薬、保湿剤やステロイド外用薬を用いることで継続的に治療ができます。
しかし、塩化アルミニウムは現在、保険診療に適用のある外用薬はなく、院内製剤として一般的に処方されています。
手掌や足底には、水道水に電流を流すイオントフォレーシスも第一選択として用いられます。
2012年に重度の原発性腋窩多汗症にボトックス(一般名:A型ボツリヌス毒素製剤)が保険適用となったことは大きな話題となりましたが、これを最後に新薬は登場していませんでした。
上記でご紹介した2種類の新薬はそれ以来の待望の新薬となります。
医療機関の受診率は低い
3人に2人の患者さんは多汗であることを主訴に病院を受診できていないという統計2)や、医療機関の受診率は6.3%であるという日本の疫学調査3)の報告もあります。
今回ご紹介した原発性腋窩多汗症の薬剤を販売している科研製薬・マルホの2社は、それぞれにアンケートを用いた調査を行い、最近その結果が論文発表4,5)されました。
これらの論文でも医療機関の受診率は10%に達していません。
やはり、気になっていても医療機関で治療することを躊躇してしまうのが現状でしょう。
今回ご紹介した治療薬を含めた薬の進歩が、「医療機関で多汗症治療」という理解と受診率向上のきっかけとなればよいですね。
3回にわたってお届けしました、皮膚科領域の新薬はいかがでしたでしょうか。
今回取り上げた多汗症にも治療薬が増え、他の皮膚科疾患では生物学的製剤が浸透してきています。
少しでもみなさまの参考となりましたらうれしい限りです。
1) 原発性局所多汗症診療ガイドライン2015
2)Strutton DR, et al.: J Am Acad Dermatol. 2004; 51: 241-248.
3)Fujimoto T, et al.: J Dermatol. 2013; 40(11): 886-890.
4) 藤本智子ほか: 日臨皮会誌. 2022; 39(3): 431-439.
5)Fujimoto T, et al.: Arch Dermatol Res.2022 Jun 29. doi: 10.1007/s00403-022-02365-9. Online ahead of print.