令和4年の診療報酬改定におけるトピックの1つが、情報通信機器を活用した「オンライン診療」の拡充です。
近年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、オンライン上でのコミュニケーションが大きく注目されるようになりました。
医療業界においてもWeb講演会がますます盛んになったほか、MRとの面談といったコミュニケーションが対面からオンラインに置き換えられることも増えてきました。今後、実際の診療においてもその流れがますます求められていくことでしょう。
今回は、このオンライン診療を取り上げ、前後編にわけてご紹介します。
前編はオンライン診療の概要についてです。
オンライン診療とは
厚生労働省作成の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療を以下の表のように定義しています。
ここでいう「遠隔医療」には、オンライン診療だけでなく、遠隔病理診断や遠隔画像診断、遠隔モニタリングなど、幅広いものが内包されています。
●用語の定義
遠隔医療 | 情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為。 |
オンライン診療 | 遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。 |
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(厚生労働省)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/000889114.pdf
オンライン診療の現在までの変遷
もともと、情報通信機器の医療への活用は、早くから検討が進められていました。
平成9年12月24日の厚生省健康政策局長通知において、医師法第20条(医師が診察をせずに治療や診断書等の交付を行うことを禁止)に遠隔診療が直ちに抵触するものではないという解釈が示されています。
以降、診療報酬改定を通じ、情報通信機器を活用した遠隔診療への対応が進められてきました。
●「医師法第20条」に関する通知と診療報酬改定
1997年 | 遠隔診療が「医師法第20条 無診察診療の禁止」に直ちに抵触するものではないと通知(厚生省健康政策局長通知) |
2003年 | 初診及び急性期疾患では直接の対面診療を原則とする旨および遠隔診療の対象を提示(厚生省健康政策局長通知の一部改正) |
2011年 | 遠隔診療の対象となる患者を追加(厚生省健康政策局長通知の一部改正) |
2015年 | 情報通信機器を用いた診療の明確化 |
2017年 | 直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合、遠隔診療が直ちに医師法第20条等に抵触しないことを通知 |
2018年 | 情報通信機器を用いた診療に関するルール整備 平成30年度診療報酬改定にてオンライン診療料、オンライン医学管理料、オンライン在宅管理料・精神科オンライン在宅管理料を新設 |
2020年 | 令和2年度診療報酬改定にてオンライン診療料の要件の見直し |
2022年 | 令和4年度診療報酬改定にてオンライン診療料を廃止し、情報通信機器を用いた場合の初診料、再診料、外来診療料を新設 |
「情報通信機器を用いた診療の経緯について」(厚生労働省)より作成
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000193828_1.pdf
実際に「オンライン診療」に関する項目が新設されたのは、平成30年度診療報酬改定においてです。
ただし、その際の対象は、「特定の指導料・管理料を算定している初診以外の患者かつ、初診から6月以上を経過した患者」となっており、再診の患者に限定されていました。
その後、令和2年度診療報酬改定で、要件が初診から3月以上の経過に短縮されました。
加えて、2020年4月からは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う時限的・特例的な対応として、医師が自身の責任のもと、医学的に可能であると判断した範囲においては、初診から電話や情報通信機器を用いた診療による診断や処方が可能になりました。
これらを踏まえ、令和4年度診療報酬改定において、情報通信機器を用いた場合の初診に係る評価が新設されることとなりました。なお、それまで用いられていたオンライン診療料の項目は廃止され、「再診料(情報通信機器を用いた場合)」の項目が新たに設けられています。
初診料の診療報酬は8割程度に
初診料の点数水準については、対面診療と比較して、触診・打診・聴診等が実施できないことを踏まえつつ、オンライン診療のみで診療を終えられる可能性や、オンラインでも適切に診療を届けていくことの重要性等を勘案し、「対面診療(288点)」と「時限的・特例的な対応(214点)」の中間程度である251点とされています。
算定は、以下を除く幅広い患者が対象となっています。
1)入院中の患者に対して実施されるもの
2)救急医療として実施されるもの
3)検査等を実施しなければ医学管理として成立しないもの
4)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」において、実施不可とされているもの
5)精神医療に関するもの
●オンライン診療料が算定可能な患者
以下に掲げる医学管理料等を算定している患者 | |
■特定疾患療養管理料 | ■小児科療養指導料 |
■てんかん指導料 | ■難病外来指導管理料 |
■在宅時医学総合管理料 | ■糖尿病透析予防指導管理料 |
■精神科在宅患者支援管理料 | ■在宅自己注射指導管理料※ |
■ウイルス疾患指導料 | ■皮膚科特定疾患指導管理料 |
■小児悪性腫瘍患者指導管理料 | ■がん性疼痛緩和指導管理料 |
■がん患者指導管理料 | ■外来緩和ケア管理料 |
■移植後患者指導管理料 | ■腎代替療法指導管理料 |
■乳幼児育児栄養指導料 | ■療養・就労両立支援指導料 |
■がん治療連携計画策定料2 | ■外来がん患者在宅連携指導料 |
■薬剤総合評価調整管理料 | ■肝炎インターフェロン治療計画料 |
※糖尿病、肝疾患(経過が慢性なもの)又は慢性ウイルス肝炎に限る
「令和4年度診療報酬改定の概要」(厚生労働省)より作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000954824.pdf
診療の実際
実際の診療がどのように進められていくのかについても取り上げていきます。
オンライン診療を実施するためには
オンライン診療の実施には、厚生労働省が指定する研修を受講しなければならない、と「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では規定されています。
実際の診療で主に用いられるのは、オンライン診療専用に開発された「オンライン診療システム」や、PC・スマートフォンで使われている一般的な「通話アプリ」です。
「リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段」を使う必要があるとされているため、テキストや画像だけのやり取りで診察することはできません。
また、「オンライン診療システム」であれば、運営事業者が予約、問診票作成、決済、処方箋作成など、包括的なサービスを提供していますが、通話アプリを使用する場合は予約や問診、決済、処方箋の発行など、診療以外のやり取りをどのような手順・手段で行うか、事前に医師と患者間で決めておく必要があります。(日本医師会「オンライン診療入門~導入の手引き~【第1版】より)
診療の流れ
その上で、先述の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿うことが求められています。
診療の流れについて、患者が受診する場合を例として以下に示します。
「オンライン診療に関するホームページ」(厚生労働省)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00010.html
必要に応じて対面診療を実施
なお、指針における考え方の1つとして、オンライン診療では得られる情報に限りがあること、が挙げられます。
そのため、患者の状態について十分に必要な情報が得られていると判断できない場合や、患者の急病急変時に適切な対応を要する場合などでは、直接の対面診療を行うこととされています。
診療報酬の算定要件においても「対面診療を提供できる体制を有すること」や、「患者の急変時等の緊急時には、原則として、当該保険医療機関が必要な対応を行うこと」となっています。
さらなる活用が期待されるオンライン診療
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」にもある通り、オンライン診療は、医療に対するアクセシビリティを確保するための手段として有用なものであり、感染症などの通院困難を引き起こす事態への対応や、医師の偏在の対策にもなり得ます。さらなる機器の進歩も予測され、これからもますます普及が進んでいくことでしょう。
後編では、オンライン診療に関するデータをご紹介しますので、そちらもぜひご覧ください。