昨今、IoT・AI・ロボット工学など医療機器への技術応用が急激に進み、世界的な高齢化などの後押しもあって医療機器業界は成長市場とみなされています。 専門機器を用いた正確な診断/治療や患者のWell-being実現には、メーカーの努力だけでなく現場を担う医療従事者との協働が欠かせません。

そのような背景の下、医療現場では正確な検査データから診断・治療に、メーカー側では適正使用の啓蒙・マーケティングに、定常的にコストをかけています。しかし両者の交流機会の少なさもあり、それら活動はお互いに伝わらないことも多いのが現状です。

今回は臨床検査の視点から、国際医療福祉大学 教授/臨床検査技師の清宮先生に医療従事者として現場で大切にしていること、医療機器メーカーに求めることについてお話いただきました。


本記事は2022年10月5日開催「Pharma Marketing Day 2022 presented byデジぽち」のセミナーセッションを記事にしています。内容は当時のものとなりますのでご了承ください。
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登壇者
国際医療福祉大学 成田保健医療学部 教授 清宮 正徳
エムスリーデジタルコミュニケーションズ株式会社 マーケティング 秋葉 彩乃 

 

広がりつつある、臨床検査技師の業務内容

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秋葉
今回はPharma Marketing Dayというイベントのため医療機器企業/製薬企業の多くの方に御覧いただいています。臨床検査技師についてあまり知らないという方のために、簡単に臨床検査技師の業務についてもご紹介いただけますか?

清宮
大きく分けますと、患者さんをそのまま検査する、心電図、脳波、超音波、呼吸機能検査などの生理機能検査という分野と、患者さんから取り出した組織、例えば手術で取り出した血液や、尿、あるいは体腔液などを検査する検体検査をするのが仕事になります。

秋葉
なるほど、生体検査、検体検査の領域で、診断に関わる患者データを扱ってるということですね。病院での立ち位置というのも、昨今のチーム医療という観点ですと色々と変わってくるかなと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか?

清宮
検査技師は、医師の指示に従って生理機能検査や検体検査を実施しており、どちらかというと病院の裏方で粛々と業務を行って行くイメージでしたが、最近では少し業務が拡大していまして、検査技師ならではの強みを組織化したチーム医療、たとえば院内感染対策チームや栄養サポートチームの一員として活躍している技師も多いです。

また糖尿病療養指導士や遺伝カウンセラーなど、検査技師の強みが生きる分野は案外多く、活躍の場所は多岐に渡ります。

秋葉
ありがとうございます。病院だけでなく検査センターなど幅広く活躍の場所があるということをいただきましたが、まさにいろいろな職種含めて、チーム全体で患者さんの健康を支えていることがイメージできるかと思います。具体的には業務を進める上でどのような点を意識しているのでしょうか?

清宮
いずれの検査領域も、正しい検査結果を迅速に提供することが責務になって参ります。

毎日同じデータを報告する訳ですが、毎日同じ仕事をしていればいい訳ではなく、例えば分析装置の定期的なメンテナンスや検査値の精度管理がとても重要です。患者さんの異常データから新しい検査項目の実施を進言したり、また異常な検査結果をすぐに医師に報告するためには、常に検査結果を注視している必要があると思います。

 

臨床検査技師の通常業務でのお困りごとは?

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秋葉
毎日同じことをすればデータが出るものではないという、まさに生きたデータを扱っているからこそと思います。また、迅速に正確な値を出すということは臨床検査ならではの視点ですね。「同じことをすればデータがでるわけでない」ということですが、業務を進める上で困ったことや課題をお聞かせいただけますか?

清宮
異常値の妥当性ですね。例えばものすごい異常値が出た時に、それが本当に患者さんのデータなのか、機械の故障なのか、試薬のトラブルなのか、或いはトラブルが起きるとものすごいデータが出ることがあります。稀に発生するトラブルにも迅速に対応しなければなりません。

特に分析装置のメンテナンスやトラブル発生時には、装置のメーカーさんの助けが必要になります。このような際に技師が的確に対応するためには、メーカー担当者がユーザーを上手に教育すると、こちらも助かりますし、メーカーも助かるのでは、と思います。

またトラブルが発生した時には、可能であればすぐに来て頂き、修理対応をお願いしたいと思います。ぼくらが「どこの分析装置を買おうか?」と考える時に、メンテナンスの担当の方がどのくらいの時間で駆けつけてくれるのか、というのは非常に大きなファクターになります

また修理した後には、なぜそれが起こったのか、またどうすればそれを予防できるのか、という情報を我々が医療現場から見て医療機器メーカーの営業/学術営業/本社マーケ担当の方に伝えたいことは理解できるレベルで教えてもらえると非常に嬉しいですね。

 

医療現場から見て医療機器メーカーの営業/学術営業/本社マーケ担当の方に伝えたいことは

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秋葉
秋葉 データの即時性を大事にするからこそトラブル時の迅速な対応も求められるわけですよね。即時性という観点ですと、昨今オンラインでのコミュニケーションが活発になっているかと思います。 装置にトラブルが発生した際のコミュニケーション方法や解決方法について、清宮先生から見て、デジタルで工夫できることはあると思いますか?

清宮
あると思います。非常に便利な世の中になってきましたよね。メーカーのメンテナンス担当の方も同じ地区で故障が発生しますと、片方の現場への到着まで現場への到着まで時間がかかる時もあると思います。

分析装置からはエラーメッセージが時々出て来るのですが、オンラインで24時間監視するサービスを行っているメーカーもあります。例えばiPadなどやテレビカメラなどを、機械が納品される際に付いてくるのですが、機械自体は数千万するので、サービスで付けて、コールセンターにワンタッチで画像や動画を送れるようなサービスも結構いいんじゃないかな、って思いますね。

トラブルの状況を電話で正確に説明するのは難しいですし、時々FAXでと言われるのですけれど、いまどきFAXなど持っていないですものね…。写真を撮ってか紙に印刷をして、事務に行って送るまで30分から1時間かかってしまうこともあるので、そういうスマートメディアを上手く利用出来ると良いですね。

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秋葉
デジタルを使って課題解決するというところは多くの企業様が考えていらっしゃるかと思いますので、医療現場の課題解決のために企業ができることのひとつの例と捉えて頂ければと思います。そのほか、先生から「ユーザーを教育するのがポイント」だとも伺いました。

実際には、営業活動あるあるかもしれませんが、納品後に医療現場から足が遠のいてしまうことも少なからずあるのではないかと思います。継続的な支援という点で、企業が提供するユーザー教育について何か良い事例はご存じでしょうか?

清宮
我々の業界は学会を行うのですが、企業様にお金を出して頂いて主催頂くセミナーの他に、常設の勉強会を開催しているメーカーもあります。私が参加した例では、たとえば臨床化学検査、たとえば血液検査や尿検査をする機械を販売している日本電子株式会社さんでは、毎年関西・九州・関東などでブロックを分けて行うのですが、半日×5回ほど有料の勉強会を実施されています。

各分野の著名な先生をお招きして、小規模で行うので、ざっくばらんな話も聞けますし、参加者に質問して歩く、或いは発表してもらうなど積極的に参加してもらって勉強してもらうもので、毎年好評のようです。同じ様な試みは同じく臨床機器を販売されている株式会社日立ハイテクという企業でも実施されていました。近年ではオンラインを利用した勉強会も盛んになっているようです。

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秋葉
まさに業務に直結する勉強会は今後もますます需要が高まりそうだと感じました。ただ「トラブルに対応できるようにユーザの教育が大事」という点では、そのようなトラブルを想定した模擬演習や、講演などもあるのですか?

清宮
そうですね。たとえば同じ装置の動作を、まずは複雑な動きをして何がどう動いているのか、といった説明から、上だけじゃなく下のシリンジが動いたりといった所を含めて説明を頂いたり、定期的に我々レベルで交換するシール材ですとか、或いは洗浄など、そういう作業も必要になるのですが、新しいときは良いデータが出るのですが、機械が汚れたりへたったりするとデータが悪くなるのです。

そうならないように、どうすべきなのか、やらないでいるとどんな不具合が出るのかといった紹介も含めて、多岐にわたってご紹介頂くものもあるようです。

臨床検査を専門にしている医師がRCPCという患者さんのデータから状態を予想していく、参加者に発言を求めるなど、ユーザーが聞いているだけではなく「参加しないといけないよ」という風に居眠りが出来ない仕組みになっていますね。

この様にユーザーを教育するというのは会場を借りたり講師を呼んだりとお金はかかるかも知れませんが、メーカーの認知度や評判も上がりますし、トラブルが起きない、もしくは起きたとしてもユーザーが対応できるのは、メーカーさんにとっても福音になるのではないでしょうか。大きな目で見るとメーカーにとって大きな利益につながっていくように思います。

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秋葉
忙しい現場ですと、前任者から担当者への引継ぎのときにやり方を学ぶことに終始してしまってなぜそうなるのか?といった機器操作の背景まで理解しながら引き継ぐことができない場合もありますよね。そういうことまで考えると、そのような勉強会であれば理解も深まりますし、参加者の満足度が高まりそうだな、という印象を感じました。

先ほど「オンラインの勉強会も盛ん」というお話がありましたが、オンラインの勉強会といってもいろいろな作り方があると思います。テーマ設定など工夫の仕方が色々とありそうですね。

清宮
私を含め、検査技師は、新人の頃は業務を覚えたくてアツい心を持って一生懸命勉強するのですが、慣れてくるとベテランを気取って勉強熱心でなくなる傾向があります。ちょっとした異常を「たまたまでしょう」などと許しあってしまう雰囲気が出てしまうとデータが悪くなってきてしまいます。ですから、慣れてきたベテラン技師にも危機意識を煽ったり、もう一度基本に立ち返って検査の面白さを教えたりしてくれる勉強会も効果的じゃないかと思いますね。

私がお付き合いしているメーカーでは、分析装置マイスター制度を立ち上げて実技試験を実施し、合格したら立派な盾と表彰状を差し上げてユーザーのやる気を引き出しているようです。

秋葉
ありがとうございます。ユーザー目線ということで非常に参考になるお話をいただけたかと思います。ご視聴いただいてる皆様も、ぜひご参考いただければと思います。

 

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【トレンド】医療従事者から学ぶ 医療機器営業のヒント~患者データを扱う心構えや現場のニーズ~(2/2)

 

本記事は2022年10月5日開催「Pharma Marketing Day 2022 presented byデジぽち」のセミナーセッションを記事にしています。内容は当時のものとなりますのでご了承ください。
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